Aさん

そして、そして、茨木さんの一番の思い出スポットが、出ました「福とん」。いや、こちらは唯一今も昔の場所のまま現役で、昼時とかワークマンたちで変わらず賑わってる。

Bさん

新町通りのお店もほとんどが入れ替わってること思うとね、凄いよね。

Aさん

そら突撃取材せんとね・・・・・・

~ 🚙移動🚙 ~

Aさん

はい、茨木さんの「こころ旅」、懐かしの「福とん」さんに「とうちゃこ」。

(福とん 現在)
Aさん

ということで、店主の山舗さん(Yさん)に色々とお尋ねさせて頂きます。よろしくお願いします。

Yさん

こちらこそ。うれしいですわ、そうやって懐かしがって頂けるのは。

Bさん

新町通りでは老舗ですよね、創業はいつ頃なんでしょうか?

Yさん

昭和30年(1955年)の10月ですので、今年で66年ですか。「とんかつ屋」としてはたぶん津で一番最初やったと思います。そのあと「カトレア」さんとかもね、昔からのお店だと思いますけど。

(福とん 新装開店 昭和37年頃)              (先代創業者)        
Bさん

キャーーーっ、この方が先代ですか?めっちゃ二枚目ですね。

Aさん

山舗さんは二代目でらっしゃいますよね。厨房にはいつから立たれてるんですか?

Yさん

昭和51年(1976年)に高校を卒業してから何処にも寄らず、すぐに親父の厨房に入りました。なのでかれこれ45年ですか。

Bさん

昭和51年ということは、そうか、茨木さんとは同い年ですね。ということは、茨木さんは先代が揚げた串カツを食べてたってことになるね。

Aさん

写真は昭和の頃の前のお店ですよね、覚えてます。新町通りから少し控えた今の新しい立派なお店はいつ頃建て替えられたんでしょう。

Yさん

二十数年前ですかね。もとは眼科があったところで、そこにこれを建ててから、それまでの前の店を取り除いたんです。

Bさん

なるほど、それで通りから少し控えてる感じになってるんですね。

Aさん

ところで、レシピとかは変化してきてるんですか?

Yさん

いや、私は先代のレシピをずーっとそのまま継承しているだけです。うちのとんかつは普通やないでしょ?天ぷらのような、とんかつのような・・・・。

Aさん

そうですね、肉と衣とソースが対等合併したような・・・・あぁ、言葉にするのが難しい!

Bさん

何よ、その対等合併てのは(笑)。

Aさん

「昭和の学食」的でもある、かな。

Bさん

え?、ちょっと何言ってるかわかんないんですけど。

Aさん

サンドイッチマンかい!、だから、言葉に出来ないほど懐かしくて、美味しくて、ごはんがすすむくんだってことだよ。

Bさん

メニューも変わらず一緒なんですか?

Yさん

そうですね、メニューもずっと変わってませんね。「定食」とかも特に無くて、「単品」を好きなように組み合わせてもらいますが、そのスタイルも全く変わってません。

(現在のメニュー)
Aさん

常連さんとかって、イスに座るや否や「中に、ごはん小に、豚汁の“脂(あぶら)抜きで」とかってやたら手際よく注文されますもんね。

Yさん

そうやね。初めてのお客さんやとね、「・・・・えーっと、定食とかは無いんですか?」から始まりますね。

Bさん

ちょっとごめん、質問、その豚汁の「脂(あぶら)抜き」て何ですの?

Aさん

チッ、常連やないなあ(笑)。こちらはとんかつも普通やないけど、豚汁もまたユニークでね。普通豚汁と言うとゴボウやら、ニンジンやら具沢山にするよね、家庭とかでは。こちらの具材はキャベツと油揚げと豚と背脂だけ。背脂はそんなに脂っこくもなくて旨味だけ残っている感じなんやけどね、さすがに背脂はちょっとなぁ、と控えたい人は「脂(あぶら)抜きで!」となるわけよ。

Bさん

なるほど・・・・あなたは当然抜かないわよね。

Aさん

時代によって食の好みは変わる面もあると思うのですが、それでも「変わらぬ味」にこだわっているのはどうしてでしょう。ちょっと変えてみようかな、と思ったこともあるんじゃないでしょうか?

Yさん

そうやね。でも、変えたら変えたでね、お客さんに「これは福とんのとんかつとは違う!」と言われるんですよね。

Aさん

なるほど、深い話ですね。

Bさん

福とんさんの独特のとんかつにはどんな秘訣があるんだろう?

Aさん

まぁ、ちょっと山舗さんの仕事をしばらく見せてもらおうよ。

Bさん

とんかつて普通は卵をくぐらせてからパン粉をしっかりとつけるわよね。

Aさん

山舗さんが「天ぷらのような、とんかつのような」て仰ったけど、なるほど、パン粉をつける前に溶いた天ぷら粉にくぐらせてるね。それからパン粉をつける。そのパン粉もたくさんというわけでもない。

Bさん

ギュッとおさえたり、叩いたりもしてないよね。ほんと、フワッと軽く少だけしつける感じだね。

Aさん

それであの「天ぷらのような、とんかつのような」独特の感じに仕上がるんやね。

Bさん

あと、「福とん」さんのとんかつは薄いというのは誰もが知ってるけど、短冊状の細長い切り身を使って、そして、見て、お肉の切り身を器用に折り曲げながら天ぷら粉に入れてる。

Aさん

手際いいよね、職人技。あの薄切り肉の折り重なり具合も、独特の食感や味につながってそう。

Yさん

もうカラダにリズムが染み込んでてね。

Bさん

45年ずーっとですもんね。凄い。

Yさん

福とんのとんかつは薄いと言われますし、その通りなんですが、薄い肉をとんかつに揚げるのもそれはそれで難しいんですに。普通にやるとクチャクチャッと反り繰り返ったりしますしね。

Bさん

温度とか火加減とか衣のつけ方とか、何よりも揚がり方を見極める秘訣があるんでしょうね。

Aさん

それより、山舗さんが来てるTシャツ、いいよね。あの赤い字、読める?

Bさん

俺・・・流・・・家・・・元?、「俺流家元」かぁ!、「福とん」さんにぴったりだよね、決まってる。

Aさん

ところで、茨木さんは学校帰りに福とんさんで串カツをおやつ替わりに食べ、しばし大人の気分に浸ってたそうなんですが、今でも「小腹空いたんでちょっとつまむ」感じのお客さんはいますか?

Yさん

ええ、いますよ。

(串カツ)           (中とんかつ+小ごはん+豚汁)
Bさん

高校生とかも立ち寄ってますか?

Yさん

ええ、おりますよ。でもなぁ、今の子はお金持ってますしね、串カツ一本とか二本とかの子は少ないかなぁ。“大”とんかつに“大”のごはんに豚汁みたいな感じで食べていきますね。

Aさん

ほぉ~~、きっと茨木さんが叫んでるな、「そら、アカンやろ!」て(笑)。

Bさん

我が青春の憧れの「大とんかつ」を意図も簡単に、て?(笑)。

Aさん

さてと、茨木さんには悪いけど、これ見よがしに「実食」としますか。

Bさん

取材後記はあなた書いといてね。では、茨木さん、頂きまーす!

Aさん

「福とん」さんを取材しての編集後記 カンブリア宮殿の村上龍風(笑)

確かに「これは”とんかつ”なんかじゃない!」として好まぬ客はいるだろう。私たちが仲間と「福とん」について語り合う時、そういう声が少なからずあるのも事実だ。山舗さんもそういう声に触れることはあったろう。そして、少し変えてみようかなと心が揺らいだこともあったに違いない。時代と共に人々の嗜好は変わるし、それに合わせて「変える」のがむしろ普通だと思う。

だけど、変えたら変えたで常連さんから「これは違う!」と言われてしまうのだ。「福とん」を愛して足しげく通う常連さんたちは、そんじょそこらの「とんかつ」などではなく「”福とんの”とんかつ」を食べに来ているのだ。そう悟った山舗さんは、先代の跡を継いで早45年、来る日も来る日もぶれることなく「”福とんの”とんかつ」を揚げ続けて来られたのだ。

「福とん」の「とんかつ」は「とんかつ」ではなく「福とんのとんかつ」という料理なのだ。食べたことのあるもの同士では「福とんのとんかつ」と言うだけで一瞬にして了解しあえる。ところが、食べたことない人に「福とんのとんかつ」がどのような「とんかつ」であるかを伝えるのはなかなか難儀なのだ。結局のところ「福とんのとんかつ」としか言いようがない。

「唯一無二」を時代を越えて守り続けることは並大抵のことではない。山舗さんをして「福とんのとんかつ」にこだわり続けさせたのは常連客さんたちの「福とん」への愛着であり、その愛着に真摯に応え続けることこそ自分の使命なんだと考えた山舗さんの信念、そして「俺流」に対する自信と誇りなんだと思う。

Bさん

ちょっと~、何ひたってんのよ!終わったの?私もう食べたからね。ご馳走様でした!

Aさん&Bさん

山舗さん、お忙しいところご協力を頂き本当にありがとうございました!

(二代目 山舗さん 「茨木さん、待っとるよぉ!大とんかつ、食べてってえ」)

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